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広島高等裁判所 平成6年(ネ)133号 判決

控訴人(被告)

児玉建設株式会社

被控訴人(原告)

福井京子

ほか五名

主文

一  控訴人補助参加人の本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人補助参加人の負担とする。

事実

第一申立て

一  控訴人

1  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文と同旨。

第二事案の概要

本件は、控訴人児玉建設株式会社(以下「控訴人会社」という。)の関連会社の従業員である一審共同被告福田伸二(以下「一審被告福田」という。)が控訴人会社の指示でその保有する大型貨物自動車(最大積載量八二五〇キログラム、以下「加害車」という。)に福井弘二(以下「亡福井」ともいう。)所有のパワーシヤベル(総重量約一四三〇〇キログラム、以下「被害車」という。)を積載してこれを運搬し、被害車を降ろそうとして加害車のアウトリガー(固定足)を張り出させるために調節レバーを操作中、傾斜した荷台から被害車が滑り落ちて転落・横転し、被害車を発進させようとして運転席に乗り込んでいた亡福井がその下敷きになって死亡するという事故が発生した。

右事故(以下「本件事故」という。)のため、亡福井の相続人(妻及び子)である被控訴人ら六名が、加害車の運転者である一審被告福田に対しては民法七〇九条により、控訴人会社に対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条、民法七一五条一項、民法四一五条により、控訴人会社の代表者である一審共同被告児玉信二に対しては民法七一五条二項により、いずれも亡福井の逸失利益・慰謝料・葬儀費・弁護士費用を含めた損害の内金七〇〇〇万円の賠償と本件事故時からの遅延損害金の支払いを求めたものである。

原審は、一審被告らの責任(控訴人会社については自賠法三条の責任)を認め、亡福井の過失割合を八割として損害を過失相殺して被控訴人らの請求を損害金一四〇九万一四一二円と本件事故時からの遅延損害金の支払いの限度で一部認容したため、加害車を対象とする自賠責保険の保険者で訴訟告知を受けて原審で控訴人会社に補助参加した控訴人会社補助参加人から控訴人会社に自賠法三条による損害賠償責任を認めた原判決は不当であるとして控訴がなされたものである。

第三当事者の主張

以下に付加、訂正する以外は、原判決事実摘示(同三枚目表六行目から一〇枚目裏七行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の補正

原判決三枚目裏二行目の「加害車」を「被害車」と改め、同三行目の「死亡した」の次に「(以下、右事故を「本件事故」という。)」を加える。

二  控訴人補助参加人の補足的主張

1  本件事故は、以下にみるとおり加害車の運行によつて生じた事故とはいえないから、控訴人会社に自賠法三条の責任はない。

控訴人会社は、下請業者である亡福井から依頼されて被害車を積込場所である広島県神石郡三和町小畠の佐々木林業敷地造成工事現場から同町井関の大本隆美方圃場整備工事現場付近の本件事故現場まで搬送することとなり、関連会社の従業員である一審被告福田に指示して被害車の搬送を命じたものであるが、控訴人会社の搬送業務の内容は被害車を積載した加害車を積込場所から積降場所まで運行するものであり、被害車の積込み、積降しのための加害車のアウトリガー等の操作は加害車の運転者である一審被告福田が行うとしても、被害車の積込み、積降しのための被害車の運転は亡福井の作業範囲に属するものである。したがつて、亡福井は被害車の積込み、積降しの安全のための加害車の状態を点検・確認し、必要に応じて一審被告福田に指示する等、一審被告福田と共同して加害車の操作に当たるものというべきところ、本件事故は、亡福井が加害車の荷台から被害車を運転して積降しをするときに安全を無視して無謀な運転操作を行つた結果生じたものであつて、加害車の運行に起因するものとはいえない。

2  仮に、本件事故が加害車の運行によつて生じた事故と認める余地があるとしても、亡福井は以下にみるとおり加害車の運転補助者というべきものであつて、自賠法三条の「他人」に該当しないから、控訴人会社は自賠法三条の責任を負わない。

すなわち、亡福井は一審被告福田とともに加害軍の荷台から被害車を積降すという共同目的を実現すべく共同して各自の分担行為を行つており、加害車の運転者である一審被告福田は被害車の運行に、被害車の運転者である亡福井は加害車の運行に係わり合つており、両者とも本件事故の発生に寄与しており、加害車の荷台を傾斜させて被害車の降車が可能な状態にする作業が一審被告福田のなすべき作業であつても、亡福井は被害車の積降しが安全にできるように一審被告福田に指示すべき立場にあるにもかかわらず、右作業について亡福井はなんらの指示もしなかつたものであるから、亡福井と一審被告福田との間になんらの主従関係がなかつたとしても、被害車の転落により第三者に被害を与えた場合には、亡福井は一審被告福田と同程度の有責的行為を行つたと評価されるべきものであつて、亡福井は加害車の運転補助者として自賠法三条の「他人」には該当しないと解すべきである(最判昭和五七年四月二七日判例時報一〇四六号三八頁参照)。

第四証拠関係

証拠関係は、本件記録中の原審における書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、本件事故は、加害査の運行によつて生じた事故であり、亡福井は自賠法三条の「他人」に該当するから、控訴人会社は自賠法三条の責任を負うと解するものであつて、被控訴人らの請求は原審が認容した限度で正当として認容すべく、その余は失当として棄却すべきものと判断する。

その理由は以下に付加、訂正する以外は、原判決の理由説示(同一〇枚目裏末行から同二〇枚目裏一行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一二枚目裏五行目の「表示した場所」の次に「(本件事故現場)」を、同一四枚目裏四行目、同一五枚目裏末行の「荷台」の前にいずれも「板張り敷の」を、それぞれ加える。

2  同一六枚目表一〇行目から同裏五行目までを次のとおり改める。

「(二)自賠法二条二項によれば、『運行』とは『自動車を当該装置の用い方に従い用いる』ことをいうとされるところ、加害車は建設機械等の運搬を目的として購入され、平成元年七月ころ、荷台にユニツトクレーンを取付るべく改造がなされた大型貨物自動車であつて(甲九の二、三項参照)、加害車のアウトリガー、荷台は加害車の固有の装置に該当するというべきである。そして、本件事故は、一審被告福田が加害車に被害車を積載して本件事故現場まで運搬し、走行停止のうえ、被害車を加害車から積降すべく、加害車のアウトリガーを操作して荷台を傾斜させていた際に発生したものであるから、自賠法二条二項の『運行』の定義にいう『自動車を当該装置の用い方に従い用いる』場合に該当し、また、前記認定事実によれば、本件事故と亡福井の死亡の結果とは相当因果関係があると認めるのが相当であつて、本件事故は加害車の運行によつて生じた事故というべきである。」

3  同一七枚目表四行目の次に改行のうえ、次のとおり加える。

「この点に関し、控訴人は、本件事故当時における加害車の運転・走行と関連する具体的な運行関与者の行為等からみれば、亡福井は被害車の積降しが安全にできるよう一審被告福田に指示すべき立場にあり、一審被告福田と共同して被害車の積降しを実現すべく各自の分担行為をしていたから、亡福井は加害車の運転補助者として自賠法三条の『他人』とはいえない旨主張するところ、一審被告福田は亡福井に被害車の運搬を有償で依頼された控訴人会社の指示により被害車を本件事故現場まで運搬したものであつて、加害車に積載されていた被害車の積降しに被害車の運転者である亡福井の協力が必要としても、その責任自体は控訴人会社の指示を受けた一審被告福田にあるというべきであつて、前記認定事実に照らせば、本件事故は、一審被告福田が加害車の前側左右のアウトリガーを操作して荷台を傾斜させて後側左右の固定式アウトリガーが地面に接地した直後に発生したものであつて、亡福井が一審被告福田とその責任を分担すべきものとは認めがたく、自賠法三条の『他人』と解するのが相当であるから、控訴人の主張は採用しがたい。」

二  よつて、控訴人補助参加人の本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井眞治 古川行男 岡原剛)

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